2015年6月2日 火曜日

本当に患者のためか?「疑問符」がつく国民健康保険法の改正

本当に患者のためか?「疑問符」がつく国民健康保険法の改正

ジャーナリスト 堤未果 二〇一五年四月二十八日。衆議院で「国民健康保険法改正」が通過した。同法改正の一部、「患者申出療養制度」について、多くの医療従事者や患者団体、野党議員などからあがっている疑問の声を、一体どれだけの国民が知っているだろう? 「混合診療」は、国民の医療費負担増大と安全性・有効性の担保がされない医療拡大への懸念から、日本では原則禁止されてきた。だが政府の規制改革会議の強い要望を受け、2006年から「保険外併用療養費制度」として,一部例外的な適用が開始されている。保険収載を前提とした薬剤や医療機器の治験と先進医療などの「評価療養」と、差額ベッドなど保険に関係ない「選定療養」の二種だ。 今回の「患者申出療養制度」では、これまで申請は一部医療機関側に限られていたのが、「患者側からの要望」にまで拡大されることになる。 患者は医師から紹介された臨床研究中核病院もしくは特定機能病院の専門部署で、未承認薬の安全性・有効性について説明を受ける。その後医療機関側が、患者が納得したという署名付き同意書を添付した申請書を国に提出するという流れだ。...

2015年4月14日 火曜日

戦略特区で進む外国人受け入れで 健康保険が崩壊する 

戦略特区で進む外国人受け入れで 健康保険が崩壊する 

  ジャーナリスト 堤 未果   3月7日。安倍政権が力を入れる「国家戦略特区」の諮問会議は、今国会に提出する国家戦略特区法改正案に盛り込む規制緩和の追加策の中に「特区内での外国人医師受け入れ拡大」方針を固めた。  現在、日本の医師免許を持たない外国人医師による診療は、「臨床修練制度」によって、厚生労働相指定病院で指導医の監督の下、研修としてのみ認められている。 政府が強調する外国人医師受け入れ理由は「日本の医師不足解消」だが、本音は医療ツーリズムの促進だろう。 外国人医師による診療に関しては、現在継続中のTPPの交渉テーブルに出されている、医師免許のクロスライセンスにつながってくるからだ。 TPPではものやサービスだけでなく、人の移動も自由化されるからだ。 TPPだけではない。   今年経済統合するASEAN(東アジア諸国連合)でも、医師免許の共通化が予定されているうえ、日本やインド、中国やオーストラリアなどを含む16カ国で交渉中のRCEP(東アジア地域包括的経済連携)では医療全般の大幅な規制緩和が行われる。 だが、クロスライセンスが解禁されて、医師達が国境を報酬や待遇のよさを求めて国境を越え始めることにはマイナスの影響も否めない。  ...

2015年4月10日 金曜日

まさに、いつか来た道 ーーイスラム国掃討と膨れあがる米の軍事費

まさに、いつか来た道 ーーイスラム国掃討と膨れあがる米の軍事費

ジャーナリスト 堤未果   ISILの人質となった湯川春菜・後藤健二両氏の痛ましい殺害事件が、日本中に衝撃と激しい怒り、深い悲しみをもたらしている。オバマ大統領を筆頭に、西欧諸国はテロリストに屈しない旨を次々に宣言、同じく人質だった自国パイロットが殺害された報復として、ヨルダンはシリア爆撃を開始した。「ISILを一掃する」というその言葉に賛同する多くの声をみて、14年前のニューヨークで感じた、強い懸念がよみがえる。一体、終わりはくるのだろうか?そしてその間私たちは、どれだけの犠牲を払うのだろう?  911同時多発テロの際、当時のブッシュ大統領は〈テロとの戦い〉宣言によって、戦争の定義を書きかえた。21世紀の戦争が、かつての国家間の争いから、見えない敵を相手にする果てなき戦闘に上書きされたあの瞬間は、今も忘れられない。マスコミはテロの脅威を報道するのに忙しく、この新しい定義の中に「国境」と「終戦」の明確な線引きがないことを、疑問視する声はなかった。今後政府は世界中に一人でもテロリストが残っていれば、自国を「緊急事態下」においておけるようになる。国家の権限が、あらゆる意味で必要以上に拡大した事に人々が気づいたのは、ずっと後になってからだった。...

2015年1月19日 月曜日

アメリカの北朝鮮サイバー攻撃犯人説への違和感

アメリカの北朝鮮サイバー攻撃犯人説への違和感

ジャーナリスト 堤 未果  日本ではすぐに下火になったものの、アメリカ国内では「北朝鮮のサーバー攻撃疑惑」への非難が、オバマ大統領、FBIおよび商業マスコミによって拡大し、新年早々腑に落ちない展開を見せている。    ことの起こりはこうだ。北朝鮮のパロディ映画「ザ・インタビュー」を制作したソニーピクチャーズ社が、外部からのハッカー攻撃を受けた。「上映したら9.11を起こす」という脅迫により国内の映画館が次々に公開停止を発表、だがここから事件は急激に、国家レベルの問題に拡大してゆく。時を同じくしてFBI(米国連邦捜査局)がこのサイバー攻撃を北朝鮮による犯行だと発表し、同日の記者会見でそれを引用したオバマ大統領が「これは安全保障への脅威」だと、公式に非難したからだ。    奇妙な事に、「北朝鮮による犯行である証拠をつかんだ」というFBIの発表には具体的詳細が乏しかった。これは近年、NSAによる各国政府への盗聴行為で世界に知らしめた、NSA(安全保障局)の高度な通信傍受能力と矛盾する。  ...

2014年12月10日 水曜日

二つの選挙

二つの選挙

ジャーナリスト 堤未果 総選挙が近づいている。マスコミ各社は政局や支持率関連の報道などで忙しいが、今選挙で有権者が行うもう一つの重要な選択、最高裁裁判官の「国民審査」については、相変わらず殆ど出てこない。   学校で子供たちが習う社会科教科書によると、「国民審査」とは「主権者である国民が司法を監視する民主的制度」であるといった内容が書かれている。 だが授業で憲法を教えても、その「番人」を審査する唯一の手段である国民審査が機能していない事実とその理由について説明できる教師は、一体どれほどいるだろう?   「国民審査」導入の歴史は、GHQ占領時代にさかのぼる。「国会法立案過程におけるGHQとの関係」文書に記載されているのは、GHQ内の民生局法律家達が、「国民審査権」を民主主義に不可欠な要素だとし、軍部の反対を押し切り日本国憲法に入れた経緯だ。   「国民審査権」が存在しない彼らの国アメリカでは、今も最高裁裁判官は引退や辞任、弾劾裁判がない限り生涯解任はない。  ...

2014年11月7日 金曜日

「香港デモの先にある未来」

「香港デモの先にある未来」

  ジャーナリスト 堤 未果  二〇一七年に予定されている香港行政長官選挙制度改革への反発をきっかけに始まった, 香港の抗議デモ「オキュパイ・セントラル」。   中心核である学生組織「学民思潮」の代表で十七歳のジョシュア・ウォンは、「傘の世代」と呼ばれるポスト天安門事件世代の一人だ。15歳で同組織を立ち上げたウォンは、今回九月に香港内の大学で授業ボイコットを始め、各地のストライキを指導、最終的に金融街での占拠行動へとつなげた。   ウォンは学生達に呼びかける。「この国の未来は君たちの手の中にある」と。香港の未来を、中国本土のような縁故主義と腐敗に染まらせてはならないと。    ウォンの呼びかけに反応する学生や労働者達の姿は、一九八九年の天安門事件の背景にあった、もう一つの中国を思わせる。  あの時北京では、十万人を超す市民と学生が、民主化と経済的自由の拡大を求めて座りこみを行った。戒厳令を発動した政府によって投獄され処刑された抗議者たちの大半は、80年代に党が導入した、ミルトン・フリードマン推奨の「規制緩和政策」に反発する労働者だった。   自由市場の開放に舵を切ろうとしていた政府にとって、もっとも脅威となる層だ。...

2014年11月7日 金曜日

「警察権限拡大で1984化するアメリカ」

「警察権限拡大で1984化するアメリカ」

ジャーナリスト  堤 未果   2014年8月9日。 アメリカミズーリ州セントルイス郡ファーガソンで、十八歳の黒人少年マイケル・ブラウンが、警官に射殺される事件が起きた。 同郡は人口わずか二万一千人のうち六割が黒人、地元警察の九割は白人が占めている。米国で予算不足に苦しむ自治体の多くは、交通違反切符の罰金に頼るケースが少なくない。 歪んだ経済的動機を根深い人種差別が後押しし、黒人住民への職務質問が圧倒的に多いのだ。 日頃からそうした警察のやり方に不満をためていた住民の怒りは、加害者の白人警官が無罪になった事をきっかけに爆発した。 激化する抗議デモは略奪にまで発展し、ニクソン州知事は非常事態宣言を発動、それはまるで一九九八年にLAで起きた「ロドニーキング事件」を思わせる。複数の白人警官が一人の黒人運転手を暴行した動画が拡散したことをきっかけに、抗議デモが略奪に発展した事件だ。   だがあの時と一つだけ大きく違うのは、事件の直後に繰り広げられたデモ鎮圧の光景だろう。 戦闘服を着用し、アサルトライフル銃で武装したファーガソン郡警察が、デモ隊に向けて次々にゴム弾や催涙ガスを使用、最後は装甲車で住民を排除した。...

2014年7月14日 月曜日

「あいまいな基準で冤罪増加?児童ポルノ禁止改定法」

「あいまいな基準で冤罪増加?児童ポルノ禁止改定法」

ジャーナリスト  堤 未 二〇一四年六月十八日。 「児童ポルノ禁止法改定法」が参議院本会議を通過した。   漫画とアニメは「表現の自由侵害」に拝領して規制対象外となったが、自らの性的好奇心を満たす目的でのデジタル画像を含む児童ポルノ所持には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金を伴う刑事罰が導入される。   警察庁のデータでは、去年1年間に児童ポルノ禁止法違反の検挙数は1644件、被害児童数は646人、うち小学生以下の児童は92人だ. いずれも過去最多だが、果たして今回の改定法に抑止効果はどれ程期待できるのか?   今回の改定法のメインである「単純所持禁止」によって、今後「児童ポルノ」は銃や刀や薬物などと同様「禁制品」の枠に入ることになる。だが奇妙なことに、今回の対象である「児童ポルノ」には、銃や刀のように詳しい定義が存在しない。条文には「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という表現が繰り返し出てくるが、一体この判断は誰がどういう基準でするのだろう?  ...

2014年7月14日 月曜日

「社会保障の為の増税で医療崩壊?」

「社会保障の為の増税で医療崩壊?」

ジャーナリスト  堤 未果 四月一日より5%から8%に引き上げられた消費税増税をうけ、各業界では一気に価格転嫁が起きている。 安倍総理はデパートを視察し、「消費税が8%になったので(導入時より)高くなった実感がした値上がりを感じた」と発言、増税分は社会保障にあてると強調した。   だが今後継続的に引き上げられる消費税増税によって、逆説的に負担が増える社会保障分野について、一体どれだけの国民が知らされているだろう? 通常の課税取引であれば、仕入れ時支払った消費税は控除の対象となり、納税しても事業者に損得は発生しない。だがこの控除が受けられない分野がある。 医療機関だ。 医療サービスは、社会政策的な配慮から非課税取引とされているため、医療機関は、最終消費者である患者から消費税を受け取れないしくみになっている。   利用者が窓口で支払う医療費に消費税はかからないが、医療機関が他の事業者同様大量に仕入れる薬や医療機器などの代金、建物の建設や改修、パソコンなどの消耗品購入や外注費用には、全て消費税が課税され、「仕入れ税額控除」が認められていない。  ...

2014年3月31日 月曜日

ウクライナの未来予想図

ウクライナの未来予想図

ジャーナリスト 堤 未果 2013年12月。3回目のウクライナ・キエフ訪問から帰国した、アメリカのヴィクトリア・ヌーランド国務次官補は演説の中でこう語った。 「ウクライナに対し過去20年間で50億ドルという金額を投資したアメリカは、同国にIMF「改革」の導入を要求するつもりだ」 ウクライナをロシアの影響下からEU側にひきこみ、欧米の近代的民主主義国家にすることが必要だという主張だ。 そして自体はその通りに進行してゆく。当時ウクライナで拡大していた欧米支援の反政府運動によって、ビクトル・ヤヌコーヴィッチ大統領は政権から追い出され、欧米寄りの新政権が誕生。IMF改革の導入を決定した。 その後、政権打倒のきめてとなった二月二十四日クーデター、その数週間前にヌーランドがキエフにかけた一本の電話がロシア政府によって暴露され、物議を醸すことになる。相手がジェフリー・パイアット駐ウクライナ大使で、内容が政権転覆後の新人事だったからだ。会話の中でウクライナの新指導者として名前が挙がっていたのは、強固な親米親EUの政党幹部で、アメリカが望むIMF構造改革導入に積極的なアルセニー・ヤツェニュークだった。...