ジャーナリスト 堤未果
2015年11月13日。自民・公明両党の幹事長は消費税軽減税率で議論していた食品について「外食」を除いた「生鮮食品」と「加工食品」とすることで合意した。
この決定には賛否両論あるが、軽減税率の恩恵がわずか2%とそれにかかる手間を差し引きすると、導入に要するシステムを提供する大手企業への特需以外、効果のほどは疑問が残る。
政府や大手マスコミ、増税論者らはよく、欧米の消費税率と比較して、日本はまだ上げる余地があると言う。
だが奇妙なことに、そこで出されるデータをみると、生活必需品を非課税または低く抑え、加工品や贅沢品にのみかける海外の「付加価値税」を、日本の「消費税」と同列に比較しているのだ。比較対象自体がおかしければ、情報操作と揶揄されても否めないだろう。
そもそも前提となっている、2017年の10%増税実施について財務省が掲げる、「今後増える社会保障費の安定的財源」という大義名分自体どうなのか?
国家と国民にとってのデメリットの巨大さは見過ごせない。たとえば政府は、低所得年金受給者1250万人に一人3万円の臨時給付金を配り景気回復策のひとつとするという。だがその一方で、軽減税率の財源確保のため、医療や介護などの自己負担額に上限を設ける「総合合算制度」を見送る方針を明らかにしている。本末転倒のこの姿勢は、過去消費税が増税されるたびに錦の御旗にされてきた「社会保障費財源確保」の実態そのものだ。
ふたを開けてみると医療費自己負担率の引き上げや(一割から3割)、年金の支給開始年齢延期、後期高齢者医療制度創設や入院時の食事代値上げなど、美辞麗句とは真逆の福祉切り捨て政策が進められてきた。最近では日本が世界に誇る「高額療養費制度の見直し」まで飛び出し、あきれてものが言えない。
国内の医療機関も悲鳴を上げている。医療は非課税のため、仕入れ分の税額控除ができない医療機関は、消費税があがるたびに巨額の損税を負担しなければならないからだ。日本医師会によると8%の増税による損税分は、保険診療収入の3・5%にあたる1兆4000億円超、診療報酬がマイナス改定された今となっては、今後倒産する医療機関はますます増えるだろう。
湖東京至元静岡大学教授によると、消費税が8%になった事で、下請け業者の単価をたたいている輸出大企業トップ十社の「輸出戻し税」は1・8倍の7837億円に増えたという。さらなる増税は、こうした恩恵を受ける経団連とそのスポンサー先である大手マスコミ、そして天下り先が拡大できる省庁にとって、相当魅力的なのは間違いない。
2006年6月。経済財政諮問会議の席で、当時議長だった小泉元総理はこう言った。
「歳出をどんどん切り詰めていけば、やめてほしいという声が出てくる。増税してもいいから必要施策をやって下さいという状況になるまで、歳出を徹底的にカットするのだ」
介護も保育も医療も自己負担があげられたうえにデフレ下での増税を進められ、あの時より遥かに苦しい状況に追いこまれている国民は、いつまで福祉のためにという嘘を信じこまされるのだろう。
今回「国民の知る権利確保」の名の下に軽減税率の恩恵にあやかった新聞各社は、震災以降積極的に行使している「報道しない自由」の代わりに、こうした真実を知らせてほしい。
週刊現代「ジャーナリストの目」 2016年1月号掲載記事