2016年4月18日 月曜日

教育費の高騰が続けば「経済的徴兵制」が日本に根付くだろう

教育費の高騰が続けば「経済的徴兵制」が日本に根付くだろう

ジャーナリスト 堤未果   2016年4月。自民・公明両党は、返済不要な「給付型奨学金の導入を政府に提言した。具体的な制度設計や財源に関する議論はこれから詰めてゆくという。OECD諸国内で唯一「給付型奨学金」を持たない日本。学資ローンは初めは無利子のみだったが、1984年に中曽根政権が新設した有利子枠が十年で約十倍に拡大、今では四分の三が有利子だ。2007年には民間金融機関も参入して実質的な金融事業と化し、学費高騰と非正規雇用急増による世帯年収下落などから、大学生の2人に1人が借りている学資ローンの延滞率は、年々上昇している。   学生の七割が平均400万円弱を借り入れ、4人に1人が返済が延滞又は不良債権化しているアメリカでも、「学資ローン問題」は深刻な社会問題だ。熾烈な大統領選が繰り広げられる中、教育無償化を掲げる民主党のサンダース候補に若者の支持が集まっている最大の理由もここにある。オバマ大統領が実施した返済期限延長や金利減免、給付型奨学金枠拡大などがさほど効果をあげないのは何故なのか?それは問題の本質が、「教育のビジネス化」にあるからだ。  ...

2016年3月26日 土曜日

同一労働同一賃金で日本の労働環境は地盤沈下してゆく

同一労働同一賃金で日本の労働環境は地盤沈下してゆく

ジャーナリスト 堤未果 二〇一六年二月五日。衆議院予算委員会の席で安倍総理は、仕事内容や経験が同じなら原則同じ賃金を保障する「同一労働同一賃金」の法制化検討に言及した。2015年に成立した、派遣労働者が雇用形態に関わらず職務に応じた待遇を受けるという理念を掲げたいわゆる「同一労働同一賃金推進法」の具体化だ。国際労働機関(ILO)は同原則を基本的人権としてILO憲章の前文に挙げている。 だがこれを、「やっと日本も国際水準に近づいた」と喜ぶのはまだ早い。先の「同一労働同一賃金推進法」をよく読むと、その中身はILOの原則とは少々違っているからだ。同法では同じ仕事なら賃金も同水準にする「均等待遇」ではなく、同じ仕事でもその責任範囲に見合った賃金なら良いとする「均衡待遇」に修正されている。その場合、例えば正社員と非正規社員では労働時間や有給、休日など「業務内容」が異なるために、「責任範囲」が違う事が合理化されてしまう。 そもそも欧米企業と違い、高度経済成長期に終身雇用を前提とした年功給で賃金を決定し、社員を家族のように会社に囲い込んできた日本企業では、「同一労働」の定義自体が難しい。実はこの企業文化こそ、長年海外からの企業参入を阻んできた「非関税障壁」でもあったのだ。...

2016年3月26日 土曜日

再生可能エネルギーは重要。でもそれを悪用する投資家には気をつけろ

再生可能エネルギーは重要。でもそれを悪用する投資家には気をつけろ

ジャーナリスト 堤未果 2015年は、温室効果ガス排出削減を国際的コンセンサスとする潮流と共に幕を閉じた。12月12日。第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)が採択したのは、地球温暖化対策における2020年以降の新たな枠組みとなる「パリ協定」だ。 今世紀後半までの「ゼロ炭素化」を求める同協定は、温室効果ガス削減を先進国に課する京都議定書と違い、国連に加盟する全196ヶ国に対し法的拘束力を持つ。そして2016年1月16日。この流れに沿うようにして、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が、再生エネルギーの使用が、気候変動だけでなく経済効果にも大きな影響を与える事を示す試算を発表した。それによると、2030年までに風力や地熱、水力や太陽光、バイオマスなどのエネルギー使用率を現在の倍に増やすことで、世界の総GDP額が約1兆3,000億ドル増加、雇用も拡大し、化石燃料の輸入にかかる政府支出も減るという。 エネルギー輸入大国である日本が再生エネルギー使用率を倍増した場合、そのGDP増加率はトップのウクライナについで160ヶ国中2位だ。...

2016年1月15日 金曜日

「消費税は福祉のため」という大義名分はウソだ

「消費税は福祉のため」という大義名分はウソだ

  ジャーナリスト 堤未果 2015年11月13日。自民・公明両党の幹事長は消費税軽減税率で議論していた食品について「外食」を除いた「生鮮食品」と「加工食品」とすることで合意した。   この決定には賛否両論あるが、軽減税率の恩恵がわずか2%とそれにかかる手間を差し引きすると、導入に要するシステムを提供する大手企業への特需以外、効果のほどは疑問が残る。   政府や大手マスコミ、増税論者らはよく、欧米の消費税率と比較して、日本はまだ上げる余地があると言う。   だが奇妙なことに、そこで出されるデータをみると、生活必需品を非課税または低く抑え、加工品や贅沢品にのみかける海外の「付加価値税」を、日本の「消費税」と同列に比較しているのだ。比較対象自体がおかしければ、情報操作と揶揄されても否めないだろう。   そもそも前提となっている、2017年の10%増税実施について財務省が掲げる、「今後増える社会保障費の安定的財源」という大義名分自体どうなのか?  ...

2015年12月9日 水曜日

対テロ戦争の拡大でいちばん潤うのは大国の軍産複合体だ

対テロ戦争の拡大でいちばん潤うのは大国の軍産複合体だ

ジャーナリスト堤未果 2015年11月13日。パリ七カ所で起きた同時多発テロは、129人の死者と350人以上の重軽傷者を出した。オランド大統領は即座に「国内非常事態」を宣言、同攻撃を「戦争行為」と表現し、15日にシリア領内のISIL拠点への大規模空爆を開始する。 昨今起きた事件の数々と同じように、今回もテロ実行犯たちが現場にしっかりと身分証明書(パスポート)を残した事や、テロが公式攻撃演習のタイミングと一致していた事、そもそものイスラム国が生まれた経緯などは、欧米の商業マスコミでは一切追及されていない。 代わりに大国のリーダーたちは次々に「対テロ戦争強化」を高らかに宣言、日本では与党幹事長がテロ対策としての【共謀罪】の必要性に言及し、外務省はテロに詳しい非常勤スタッフの募集をかけた。 だが一体何故? SNSのページにフランス国旗を貼りつける事で追悼の意を表明する沢山の人々は首をかしげる。何故大国の軍事力をもってしても、イスラム国によるテロはなくならないのだろう?一体どうしたら、この悲劇の連鎖をとめられるのか?...

2015年11月5日 木曜日

TPP妥結で日本の農地は海外企業のものになる

TPP妥結で日本の農地は海外企業のものになる

ジャーナリスト 堤未果 十月五日。八年前から秘密裏に行われてきたTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)のアトランタ閣僚会合が終了し、記者会見が行われた。三十章の機密条文は未公開だが、安倍総理は「アジア・太平洋の未来にとって大きな成果」と高く評価し、大手マスコミは日本が大幅に譲歩した関税撤廃について連日報道中だ。 日本のマスコミは概して「世界のGDPの四割を占める経済圏の誕生」とお祭りムードだが、実際はこれから先には長い道のりが待っている。完全合意に至り、合意文書を作成し、各国の代表がそれぞれの国の議会に持ち帰り承認を得るという複数の工程があるからだ。...

2015年10月9日 金曜日

情報漏洩や巨大利権—不安材料が多すぎるマイナンバー制度の闇

情報漏洩や巨大利権—不安材料が多すぎるマイナンバー制度の闇

ジャーナリスト 堤未果   いよいよ2015年10月より日本国民ひとりひとりに個人番号がつけられる。2016年より運用開始されるこの【マイナンバー制度】は、行政サービスや税金手続き、災害時の情報共有が簡単になる事に加え、生活保護不正受給対策としてのねらいもあるという。いずれ個人の資産情報とも連動させ、納税漏れ防止にも使う方針だ。国民はこれから、確定申告や年金、雇用保険に医療保険などの手続きや、各種福祉の給付申告の際、マイナンバーの記載を求められる事になる。 だがこの制度は、現時点で、沢山の懸念が指摘されている。 最大の問題はセキュリティだ。例えば日本医師会は、政府が今年五月の産業競争力会議で打ち出した、2020年までに同カードの利用範囲を個人の医療情報にも拡大し、健康保険証としても使えるしくみを導入するという方針について指摘する。病歴や障害の有無、通院履歴や医薬品の購買履歴などは、漏えいすれば就職や住宅ローン、保険加入の合否を左右する上、差別の温床となるリスクも高めるからだ。 推進派は、「マイナンバー制度は諸外国では常識、日本は著しく遅れている」と主張するが、こうした漏えいリスクに関する導入国での状況は、他人事では済まされないレベルに達している。...

2015年9月3日 木曜日

「大衆を好戦ムードへ向かわせたマスコミの大罪」

「大衆を好戦ムードへ向かわせたマスコミの大罪」

ジャーナリスト 堤未果   二〇一五年八月十五日。 安倍総理が出した戦後70年談話の内容について、大手マスコミ各社は他国や自社の論評を報道するのに忙しい。 だが私たちが、過去の戦争を検証する際、もう一つ忘れてはならない重要な要素がある。 古今東西、時の政府が戦争を始める際、世論を誘導するという重要任務を担ってきたマスコミの戦争責任だ。 ドイツの大手新聞『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(以下FAZ)紙に十七年間勤務した元新聞記者のウド・ウルフコッテ氏は、オリエンタルレビュー誌のインタビューで、同国におけるマスコミの戦争報道を厳しく批判する。 イラン・イラク戦争で‘80年代末にイラン人に使用されたドイツ製毒ガス兵器について彼が現場取材を経て書いた記事は、FAZ社の上層部に阻止された。また、コソボで使用された劣化ウラン弾で帰還兵たちに健康被害が出ているにも関わらず、政府側に立って「劣化ウラン弾は無害」とする記事を掲載した同紙の記者は、その後NATO特派員を経て出世したと言う。...

2015年7月23日 木曜日

緊縮財政のギリシャで 軍事予算だけは削られない理由

緊縮財政のギリシャで 軍事予算だけは削られない理由

ジャーナリスト 堤未果   二〇一五年六月三十日。ギリシャはIMFへの返済が出来ず、事実上債務不履行に陥った。七月五日には、EUからの要望である緊縮策の賛否を問う国民投票が実施された。 ここまで財政赤字が膨れ上がった原因は、高すぎる年金、公務員優遇だなどと報道されているが、何故か触れられないもうひとつの重要要素についてはあまり知られていない。 債務の半分以上を占めるといわれる、防衛予算だ。 NATO同盟国28か国の中で、ギリシャの軍事支出はトップのアメリカに次いで2位と突出している。金融危機から5年たった2015年においても、財政赤字がGDPの175%だった前年よりも軍事費は1%増やし、GDP比2.4%というEU最大規模を維持し続けているのだ。 この問題について、欧州外交政策財団のサノス・ドコス所長はガーディアン紙のインタビューでこう答えている。 「1300車両という、イギリスの二倍以上の数の戦車が本当に必要なのかどうかは議論が分かれるところだろう。だがトルコの軍事的脅威に対しバランスをとるためには、やむを得ない措置なのだ」 トルコの脅威。だが本当にそれだけだろうか?...

2015年6月29日 月曜日

地方の介護現場を完全に無視した高齢者の「移住」提言

地方の介護現場を完全に無視した高齢者の「移住」提言

ジャーナリスト 堤未果 「日本創成会議」は、団塊世代が75歳以上になる「2025年問題」をふまえ、高齢者を元気なうちに東京から全国41地域へ移住させるという提言をまとめた。不足する施設やサービスの奪い合いを防ぎ、地方活性化につなげるのが狙いだという。 だがこの提言内容には疑問も残る。例えば同会議が移住先として選定した地域は、雇用を生むという利点はあるものの、医療や在宅サービスの現状について考慮されているとは思えない。...