ジャーナリスト 堤 未果

パリに本部を構える国際NGO「国境なき記者団(RSF)」による「報道の自由度インデックス」が発表された。
世界180国における報道の自由度を順位付けした報告書だ。

ジャーナリストの安全への脅威は世界的に拡大している。
先日国連総会でジャーナリストの安全確保に関する初の決議が採択された際、RSFは国連に対し、加盟国が記者達の保護義務を果たしているかどうかの監視を国連に呼びかけた。

約十年前にブッシュ政権下における令状なしの監視システムが明らかになり、内部告発者エドワード・スノーデンの告発で政府による無差別監視が世界に暴露された米国は46位。諜報機関による世界的通信傍受と内部告発者への弾圧・脅迫は今も続いている。
だが政権の情報統制に対する世論の批判も近年急激に拡大し、フェイスブック、ヤフー、グーグル、マイクロソフトといった米国内のインターネット・プロバイダー企業は、今月米国大統領および議会に、これ以上のスパイ行為やNSAへの顧客データ提出強要を止めるよう要求する書簡を提出した。

46位に落ちたアメリカより更に「報道後進国」の烙印を強く押されているのがここ日本だ。二〇一一年に11位だった順位は原発事故の翌年22位に下がり、二〇一三年はそこから大幅に急落し53位、そして今回そこからさらに59位にまで落した。今では「主要先進国で唯一、「顕著な問題」のある国カテゴリーに相当、東アジアでは韓国・台湾を下回る自由度とされている。

主な理由は、従来から指摘されている閉鎖的な記者クラブ制度に加え、東京電力福島第1原発事故における報道の自由度の欠如、原子力産業関連への取材内容の検閲、当局によるフリージャーナリスト達への独自取材禁止、および「特定秘密保護法」の成立だという。

二〇一三年十一月二十七日、国境なき記者団は「特定秘密保護法」についてこう批判した。「あらゆる不都合な情報を“国家秘密”に指定できる法を成立させる日本政府は、一体福島原発事故の影響について国民の間で怒りと共に高まる更なる透明性への要望にどう応えるつもるなのか」

米国では憲法に国民の権利として記載された「報道の自由」が、「愛国者法」を初めとする情報統制法や権力集中を強化する政権下で暴力的に侵害されている事に多くのジャーナリスト達が批判の声をあげている。

代わって日本はどうだろうか。日本国憲法には「報道の自由」は存在しない。あるのは第21条で認められている、「知る権利」を充足させる為の報道機関の自由だ。

マスメディアは誰の人生を取り上げ、誰を無視するかを決める権力を持っている。何に対して同情の涙を流させ、何を取るに足りないとして無視させるのか、誰を英雄にし、誰を悪人に仕立て上げるのか、記号でしかない数字にどんな意味をつけるのか。

「報道の自由」は、社会が求め、守るべき価値があると認められて初めて正当性を持つ。それは「権力の監視」と「真実を伝えること」の二つに他ならない。

先ごろ、福島第一原発事故の取材で来日した、在米独立系ラジオ番組のキャスター、エイミーグッドマン氏に「独立ジャーナリズムの意義」について尋ねると、こんな答が返ってきた。
「海の向こうの人々を当事者として取り上げる事で、数字だけでは見えないリアリティと連帯感を生み出せる」

現在諮問会議で審議中の「秘密保護法」について、安倍総理が尊重するよう言及した「報道の自由」とは一体、何に対しての「自由」をさすのだろう。昨年同法が成立する直前になって、マスコミ各社は次々に「国民の知る権利」を主張した。
ならば彼らが今まで謳歌してきた「報道しない権利」についてはどうか。

年末の施行に向けた特定秘密保護法の行方を含め、世界の厳しい目が日本に注がれている。

(週刊現代3月8日号 連載記事「ジャーナリストの目」に掲載)